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称賛から一転、不安渦巻くフランスの「マリ単独介入」

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 つい10日ほど前、与野党も、国民の大部分も、関係各国もみんな、大統領の決断に拍手を送ったものだった。なのに一転、不安が渦巻き始めている。西アフリカ・マリへのフランスの軍事介入は、オランド政権の当初の思惑とはやや異なる方向に流れつつあるようだ。

 マリでは今年に入り、北部を実効支配するイスラム武装勢力が首都バマコに迫る勢いを見せ、政府軍の劣勢が伝えられていた。これに対し、政府軍を支援するフランスの軍事行動をオランド大統領が発表したのは1月11日夜。ただ、作戦はすでに10日に始まっていたとみられている。マリ中部の中心都市モプチ近郊のセバレ空港でこの日、仏軍を運んできたと見られる軍用機の到着が目撃されていた。

 仏軍は11日、武装勢力の拠点に対する空爆を始め、15日からは地上部隊も投入。いったん武装勢力の支配下となった中部ディアバルに迫った。

 現地マリで、仏軍は圧倒的な支持を持って迎えられた。武装勢力には、カルト色の強い「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」(AQIM)が深くかかわっており、これを壊滅させることは多くのマリ国民の望みでもあり、国際社会の一致した要請でもあった。フランス国内でも、与党の左派から野党の右派まで、介入への支持を表明した。わずかにドヴィルパン元首相らが懸念を表明した以外、反対の声はほとんど上がらなかった。ここまでは、ほぼ狙い通りの展開だった。

 就任半年で深刻な支持率低下に悩んでいたオランド大統領にとって、軍事行動は絶好の転機となると見られた。大統領が人気を回復する姿を予想して「オランド・ヌーヴォー」(新しいオランド)と呼んだメディアもあった。

 しかし、栄光の期間は1週間と持たなかった。フランスの介入に続く各国の動きが極めて鈍かったからだ。

 オランド大統領の介入発表から間もなく、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の加盟国は支援部隊をマリに派遣した。もっとも、砂漠での戦闘に不慣れな部隊、もともと弱体化していた部隊が少なくない。リビアなどから流れた兵器で重武装したイスラム武装勢力とすぐさま対抗できるとは考えにくく、これらの部隊を展開するには、仏軍が武装勢力を相当痛めつける必要がある。

 欧米各国も、フランスに対する支援を口先では表明したものの、その内容は後方支援や非軍事部門での協力がほとんどだった。ドイツは輸送機の提供を表明する一方で、メルケル首相が21日、「私たちはアフリカでの経験に乏しい」と述べるなど、共同の軍事行動には消極的な姿勢を隠さなかった。カナダも、アフリカ各国の部隊輸送に協力すると表明したものの、部隊の派遣は否定した。欧州連合(EU)は2月5日、マリ支援のための閣僚級会合を開く予定だが、西アフリカへの関心自体が薄い加盟国も多い。軍事行動への関与の姿勢をどこまで打ち出せるか、不透明だ。

 フランスが2011年、リビアへの軍事介入に踏み切った際には、英国と行動をともにした。しかし、地中海に面し、石油利権もからむリビアと違って、マリは貧しい内陸国であり、旧宗主国フランス以外の欧米とのつながりも強くない。今回、フランスの単独ぶりばかりが目立つ形となっている。

 これを「孤立」ととらえて批判する見方が、フランス国内で急速に浮上した。軍事介入は本来、EUや北大西洋条約機構(NATO)の枠組みなどを使って各国と協調しつつ進めるべきなのに、その根回しと準備を怠ったのでないか、というのである。右派の野党「大衆運動連合」(UMP)のコペ党首は16日、国民議会(下院)での討論で「フランスは孤立しているのでないかと、深刻に心配している」と発言。UMPのペクレス副事務局長は「もし大統領がサルコジだったら、もっと多くの協力を得られていただろう」と批判した。

 状況はさらに16日、アルジェリア南東部イナメナスで起きた天然ガス関連施設へのイスラム武装グループの攻撃で、急展開した。日本人も巻き込んだこの事件で、犯行グループが要求したのは、フランスの軍事行動の停止だった。

 ガス関連施設への攻撃は周到に用意されていたと見られ、フランス軍事介入の直接の反応とは考えにくい。ただ、犯行グループの要求は欧州社会に、2001年の9・11同時多発テロ当時の恐怖の記憶をよみがえらせた。事件の前日に仏調査機関CSAが公表した世論調査で、仏国民の64%は「軍事介入によって仏国内でのテロの可能性が高まる」と回答していたが、その不安はさらに強まったと考えられる。

 さらに、フランスが前面に出過ぎることが植民地主義の再来と受け止められ、風向き次第ではアフリカ諸国の反発にもつながりかねない恐れを懸念する声も上がった。

 一方、UMPのフィヨン前首相は自身のブログで「我が国が戦う時、わたしはそれを支持する」と述べ、軍事介入への批判を戒めた。野党の間でも対応は揺れている。

 仏外務省は22日、支援について米国と協議を続けていると述べたが、その規模や形態は明らかにしていない。

 オランド大統領は「必要な期間マリにとどまる」と述べているものの、長居をするつもりは本来ないだろう。欧米各国の協力を得て武装勢力に深刻な打撃を与えた後は、マリ政府軍とアフリカ諸国軍に後を任せて早々に撤退する、とのシナリオを描いていたに違いない。しかし、軍事的にはともかく、政治的にことが順調に運んでいるとは言い難い。出口は日に日に、不透明となりつつある。

 


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